「宇宙に命はあるのか」は、もちろん自分の経験や知識だけを元に書いたのではありません。膨大な数の本を読みました。かなり僕自身の勉強にもなりました。その中から、とりわけオススメの本を6冊ほど紹介したいと思います。2, 3, 5, 6は和訳もされているので是非!
1. Red Moon Rising: Sputnik and the Hidden Rivals That Ignited the Space Age.
Matthew Brzezinski著, Times Books, 2007
旧ソ連の宇宙開発の話。アメリカ側は山のように資料があるのですが、それに比べソ連側の資料は極めて乏しい。本書は、ソ連のカリスマ的ロケット技術者・コロリョフを主人公に据え、第二次大戦からスプートニクの打ち上げに至るまでのソ連の宇宙開発史と人間ドラマが描かれています。
「宇宙に命はあるのか」では1章のおよそ10ページを割いてコロリョフを描きましたが、その部分で本書を大いに参考にしました。
ただし、事実関係の正確さには若干の難あり。「宇宙に命はあるのか」の参考にする際には、本書の引用文献にある1次ソースを確認しながら進めました。とはいえソ連の秘密のベールに包まれた宇宙開発のドラマを俯瞰できる良書だと思います。
2. Digital Apollo: Human and Machine in Spaceflight
David Midell著、MIT Press, 2011
宇宙におけるデジタル・コンピューター、アポロ誘導コンピューターの話なのですが、単なる技術史に止まらず、そこから人間と機械(あるいはコンピューター)の関係についての深い洞察を引き出している点が良いです。
昨年、和訳が出ました。デジタルアポロ ―月を目指せ 人と機械の挑戦、岩澤ありあ訳、東京電機大学出版局
著者はMITの技術史の先生で、学生の時に彼の授業を聴きました。それを通して本書を知りました。
「宇宙に命はあるのか」の第2章の約半分がアポロ誘導コンピューターの話です。その内容だけではなく、コンピューターを毛嫌いする宇宙飛行士がMITの技術者を罵倒した逸話など、先見的なエンジニアv.s. 保守的な宇宙飛行士という構図は、本書を参考にしました。
3. Cosmos
Carl Sagan著、Random House. 1980
宇宙好きのみならず人類の必読書!!!!何を読むか迷ったら、まず手に取るべき一冊。一般向け宇宙本の、言わずと知れた名作中の名作です。現在アメリカで宇宙に携わる一線の科学者の殆どは、若い頃にこの本の洗礼を受けたんじゃないでしょうか。すでに読んだことがあるならば、「宇宙に命はあるのか」に示されている僕の考えが、カール・セーガンの絶大な影響を受けていることが見て取れるはずです。(とりわけ3〜5章。)
もちろん和訳もあります。COSMOS、木村繁訳、朝日選書。
4. Voyager Tales: Personal Views of the Grand Tour.
David W. Swift著、AIAA, 1997
ボイジャー計画に携わった技術者・科学者へのインタビュー集。史上最も成功した太陽系探査ミッションと言っても過言ではないボイジャー、その舞台裏を知るための貴重な資料です。「宇宙に命はあるのか」3章に描いた、グランド・ツアーのアイデアを閃いた大学院生ゲーリー・フランドロの話や、技術者によるワシントンへの反抗の話などは、本書を参考にしました。
5. Five Billion Years of Solitude : The Search for Life Among the Stars
Lee Billings著, Current. 2013
気鋭の若手科学ジャーナリストLee Billingsによる、系外惑星探査、地球外生命探査、地球外文明探査についての本。本人による第一線研究者へのインタビューを元に書かれており、全ての章が研究者の人間ドラマを軸に描かれています。「宇宙に命はあるのか」の第5章で描いた系外惑星探査のパイオニア、ジェフ・マーシーの成功と転落のストーリーは、この本からです。「宇宙に命はあるのか」には書けませんでしたが、MITの女性系外惑星研究者Sara Seagerの激動の半生のストーリーがとてもよかった。
邦訳もあるみたいです。五〇億年の孤独:宇宙に生命を探す天文学者たち、松井信彦訳、早川書房より。
ちなみにタイトルはもちろん、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」からのパロディ。50億年とは地球ができてからの時間(正確には46億年)です。生命が始まって以来、我々は他のどの星の生命も知らない。それが「五〇億年の孤独」です。
6. Contact
Carl Sagan著, Orbit. 1985
地球人と異星人とのファースト・コンタクトをテーマにしたSFの傑作。科学者カール・セーガンが書いているため、科学考証が極めて正確であることはもちろんですが、何よりもカール・セーガンの書く言葉の美しさとイマジネーションの豊かさ。カール・セーガンこそは僕の文章家としてのロール・モデルです。
「宇宙に命があるか」では、5章の地球外文明とのコンタクトについてこの小説よりヒントをもらいました。また、5章冒頭の引用 “For small creatures such as we the vastness is bearable only through love” (我々のように小さな生き物にとって、この広大さは愛によってのみ耐えることができる)は、本書結末部からの引用です。
もちろん和訳もされています。コンタクト、池 央耿・高見 浩 (翻訳)、新潮文庫
その他の本
この6冊以外にも非常に多くの書籍を参考にしました。こちらが「宇宙に命はあるのか」巻末の参考文献リスト:
縦に積むとこんな感じです。オーディオブックやKindleで読んだもの、日本に置いてあるものもあるので、これが全てではありません。
最後に手前味噌ですが拙著の紹介。執筆に2年もかかった最大の理由は、これだけの本を読んでいたからです。これらの本からエッセンスを抽出し、僕自身のNASAでの経験と知識を織り交ぜて書いたのが、「宇宙に命はあるのか」です。ぜひご一読くださいませ!
ちなみに、よく見ると宇宙とは関係なさそうな本がたくさん含まれていることにお気づきになるでしょう。なぜゲーテの『ファウスト』や寺山修司の詩集があるのかというと、本の中で引用しているからなのですが、じゃあそれがどう宇宙と関係するかは、読んでからのお楽しみ。