約2年かけて書いた本が、ついについに今日発売になりました!!!!
さて、この本の最終ページの謝辞には非常に多くのお名前があります。実は、その多くは専門家ではなく、一般の読者の方たちです。では、なぜ読者の方が出版前の本に協力してくれたか?それは、ネットベースのコミュニティーを作ったからです。
この本は通常とはだいぶ違う作り方をしました。読者との双方向のインタラクションで作ったのです。
どういうことか。普通、本とは著者が孤独に書いて、書き終えた後に読者が読むものですよね。読者の感想は著者に伝わりますが、それを元に本が書き変わったりなどしません。
それに対し、この本は執筆段階で読者のフィードバックをもらって書きました。つまり、双方向のチーム作業。
実はこれ、僕の本職である研究者としては当たり前にやっていることです。論文を書く時、指導教官や共同研究者、同僚に読んでもらってフィードバックをもらい、何度も何度も書き直してから投稿します。さらに論文の読者である同業研究者の査読があり、厳しい意見をたくさん浴びて修正を求められます。アカデミアでこのような習慣があるのは、そのほうが圧倒的に良いものを書けるからです。
だから、実はこれは「当たり前のこと」を、それが当たり前でなかった出版業界に持ち込んだだけなのです。
読書会
では具体的にどうやって読者からフィードバックをもらったのか。「読書会」をやりました。
初稿が大まかに出来上がった頃に、協力してくれる読者の皆さんに出版前の原稿をお渡しして読んでもらい、「読書会」で集まってもらってフィードバックをもらったのです。
読書会は4回行いました。1回につき1章ずつ。2回は僕がサンクスギビングとクリスマス休暇で帰国中に。もう2回はSkypeを使って遠隔で行いました。
なぜこれが大事か。
書き手は、永遠に自分の文章の読み手になれないんです。書いてあることはすでに自分が全て知っていること。だから、何を新鮮と思ったか、何が理解しずらかったか、何が心を打つのか、何がつまらないのか、自分ではわかりません。
読書会でいただいたフィードバックを元に、第1、2章の冒頭部を全面的に書き直しました。細かい修正は無数にあります。また、こんなアイデアも読者からもらいました。
本書冒頭には「宇宙絵地図」と「アメリカ絵地図」が入っています。
これ、読者さんからいただいたアイデアなのです。「タイタンだとかエンケラドスとかエウロパとか、いろんな星の名前が出てきて混乱する」「ボストンとかヒューストンとかロサンゼルスとか、地名を言われてもピンと来ない」、そんな意見が読書会で出ました。批判を恐れず言ってくれるのは、本当に有り難いことです。
するとある方が、「旅行ガイドブックの巻頭にあるような、情報がひとつにまとまった絵地図があるといい」というアイデアを出してくれたのです。
このように、この本は読者からのフィードバックをフルに生かして書かれました。もし読みやすい、入って行きやすいと思われたならば、それは読者視点が文章の中に入っているからです。
読者コミュニティー「宇宙船ピークオッド」
では、どうしてこんなに協力を惜しまない読者の方と繋がることができたのか。
発端は、コルク社長で名物編集者の佐渡島さんがくれた一言でした。
「1万人の薄いフォロワーよりも、10人の熱いファンを持つ方がいい」
でも、どうやって「10人の熱いファン」を得ることができるのですか?そう聞いたら、ちょっと考えた後、佐渡島さんはこう言いました。
「とりあえず、Facebookのグループでも始めてみたらどうでしょうか?」
なんだか「ファンクラブ」を作るなんて小っ恥ずかしかったですし、もし誰も入ってくれなかったら凹むだろうなあ、なんて思いつつ、勇気を出してグループを始めてみました。
ありがたいことにそれなりの数の方が入ってくれました。まずは自己紹介から始め、読者の方からデザインを募集してグループのロゴワッペンを作ったり(制作も読者さんがやってくれました)、
「船外活動」という名のオフ会をやったりするうちに、だんだんとコミュニティーが温まって来ました。メンバーの募集はあまり積極的には行わなかったのですが、現在は478人の方に参加していただいています。
時には僕がこんな相談をしたりもしました。
究極に時間がない時はアシスタントになってもらったりもしました。
そして本が完成し、出版が近づいてくると、読者のみなさんが本のマーケティングにも進んで参加してくれたのです。近所の本屋に突撃営業をかけてくれたり、チラシを勤め先に置いてくれたり、科学館やプラネタリウムに紹介してくれたり、呼びかけに応じて書店へ予約を入れてくれたりもしました。講演会を企画してくれた方もいましたし、さらにはグループの中にいたプロのデザイナーさんがチラシや雑誌広告のデザインまでやってくれました。ベーシストの読者の方が声をかけてくれて、JazzX宇宙のトーク&コンサートを一緒にやったりもしました。
みんなまるで自分の本であるかのように、この本をヒットさせようと奔走してくれています。有り難いことこの上ないです。
いや、「まるで自分の本であるかのように」というのは正しい表現ではない。正真正銘、彼ら彼女らの本なのです。本の本文に彼ら彼女らのアイデアがたくさん入っているのですから。本作りから協力してくれたからこそ、自分ごとにしてくれたのだと思います。
それにしても、僕は身体はカリフォルニアにいるにも関わらず、これほど密に読者の方と繋がることができたのは、まさにインターネットのおかげです。出版不況の大きな原因がネットやスマホにあるのも事実ですが、一方でこのように著者の味方になってくれるものでもあるのです。
そんな、読者と共に作った一冊が、今日ついに店頭に並びました。本当に嬉しい!!なんだか、高校の頃のソフトテニス部で、団体戦で勝った時のような一体感のある喜びを味わっています。
早速、読者の方が店頭に並んだ写真を撮って送ってくれています!僕は作家としては全くの無名ですが、本に込められた読者の熱量ならばどんな大物作家にも負けない自信があります!!
ぜひその熱量を、多くの人に受け取ってもらいたいと思っています!!